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中高生にもわかる相対性理論の数理(1)

カテゴリ: 数理科学の小道 作成日:2019年05月01日(水)

ついに始めます!

 

「相対性理論」を高校生できれば中学生にも理解してもらえる記事を連載させていただきます。相対性理論は聞いたことはあって興味はあるけど理解しづらいという中高生のみなさんのために、丁寧に解説をしていきたいなぁと思っています。

 

「相対性理論」、略して「相対論」とは、「アルベルト・アインシュタイン」というドイツ物理学者が構築した物理学の理論です。相対性理論には「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」とがあります。

 

大胆にいえば、特殊相対論はニュートンによる古典力学と運動を考慮した電磁気学とが一致するように修正した理論、一般相対論は特殊相対論を重力のある時空間や加速する観測系のために拡張した理論です。 

 

特に一般相対論は「ブラックホール」や「ビッグバン」などの現代宇宙論につながる提言の基礎となっています。

 

 

 

 今後の連載について

今回は、ホットな話題となっている「ブラックホール」について大雑把なお話からさせてもらいます。相対性理論といえばやっぱブラックホールですよね!

 

さらに詳しい話は相対論やその数理的な基礎知識が必要になります。今後の連載を通して、中高生レベルの数学の説明と並行して、ブラックホールの背景となる相対性理論の概念を解き明かしていきたいなぁと思っています。

 

どうぞ、宜しくお願いいたしますね。

 

 

そもそもブラックホールって何?

2019年4月10日、「イベントホライズンテレスコープ」による「ブラックホール」の観測画像が公開されて感動された方も多いと思います。イベントホライズンテレスコープとは、ブラックホールを観測する国際的なプロジェクトのことです。

 

ブラックホールとは、「一般相対性理論」で予想された天体で、重力崩壊(重い天体が自身の重力により収縮する現象)によって幾何学的に計算不能になるくらい激しい時空間の歪みをつくる天体のことです。しかし、もともとこういう話は、数理的に破綻した特異的な意味にすぎず、予想された当時の物理学者のほとんどはその存在を疑っていました。

 

ところが天体観測において、その存在の間接的証拠がたくさん見つかり、ついに「直接見れた!」という成果に至ったわけです。

 

 

一般相対性理論って何?

結論から説明すると、「一般相対性理論」とはエネルギーや質量のある物体が存在すれば、その周りの時空間は歪むという理論です。

 

歪みの仕組みをアインシュタインは次のような式で表しました。

einstein eq2

これを「アインシュタインの方程式」といいます。

 

具体的な歪み具合は gνμ で表しますが、これを「計量テンソル」といいます。「計量」とは時空間の尺度という意味を含んでいます。

 

また「テンソル」とは少し構造をもった代数の仲間だと思ってください。添え字の νμ はラベルで、それぞれ 0~3 の整数をとります。計量テンソルは時空間の座標 x = (x0, x1, x2, x3) の関数なので gνμ(x) と書くこともありますが、普段は (x) を省略します。

 

ν や μ の添え字は座標に割り振られた番号のことです。特に x0 は時間座標で x0=ct すなわち時間 t に光速度 c を掛けた値を意味します。残りの x1x2, x3 は空間成分になります。ちなみに座標の関数のことを一般的に「場」といいます。

 

では、計量テンソル gνμ はどんな構造をしているかというと

metric tensor2

4×4=16 個の関数の組になっています。高校生の方は「なんだ行列じゃないか」と思われたのではないでしょうか。そうです、行列はテンソルの一種で「2階のテンソル」ともいいます。

 

Rμν、R は複雑な構造をしていますがいずれも gνμ で表せますので、左辺全体は計量テンソルで表した式になります。

 

右辺の κ (アインシュタインの重力定数)、c (光の速度)は物理定数で理科年表に載っている値です。Tνμ もテンソルの仲間で、運動量、エネルギー、質量のような力学的な物理量で構成されています。

 

アインシュタインの方程式に運動量、エネルギー、質量の分布に従って Tνμ に入力してgνμ について解くと、 Tνμ がつくる時空の歪みが求められるというわけです。アインシュタインの方程式は、gνμ という「場」を解とする方程式なので「アインシュタインの場の方程式」といういい方もします。

 

実際には、人間の手計算で解けるケースはまれで、スーパーコンピューターなどで数値計算で解くのが普通です。

 

 

アインシュタインの方程式の解としてのブラックホール

先ほど、アインシュタインの方程式を手計算で解くのはまれだといいましたが、そのまれなケースで典型的なものが「シュワルツシルトの解」です。

 

シュワルツシルトの解とは、時間に対して変化しない、そして運動量、エネルギー、質量が球対称に分布していて、解の gνμ(x) も球対称だという特殊な条件で解いたものです。つまり、重い球体の天体を考えるのに適してますよね。

 

球対称な問題を扱う場合、「極座標」という座標を使います。

Spherical

原点からの距離(これを「動径」といいます)を rx3 の座標軸との角度を θ、x1x1-x2 平面への投影との角度を φ として (r, θ, φ) を組み合わせて作った座標を極座標といいます。

 

シュワルツシルトの解の計量テンソル gνμ を極座標で表すと(解き方は後の連載で紹介します)、次式のようになります。

Schwarzschild metric

G はニュートンの万有引力定数で、M は天体の質量です。ただし天体の中心を原点とし、動径より天体の半径より大きいとします。

 

ct は時間成分の x0 のことですが、時間に対して変化しないという条件でしたから右辺の式には ct が含まれてませんね。

 

sin2θ = (sinθ)2は三角関数という関数の一種です。この関数は、下の図のように x-y 平面において動径 1 の円弧の長さが θ のとき y 軸に投影した長さが sinθx 軸に投影した長さが cosθ という関係の意味です。今回はあまり話の中心ではありませんが、今後の連載に時々出てくると思いますので覚えててください。

 

三角関数

ここから注目してもらいたいのは、g00 の ct(時間)成分と g11 の r(動径)成分です。すなわち、

 Schwarzschild metric3

です。

 

もし、動径 r を 2GM/c2 の値に近づけると、g00 は 0 に、 g11 は ∞ (無限大)に近づきます。こういう半径 2GM/c2 の特異的な球面では、時間尺度が限りなく伸びて、空間尺度は限りなく縮まります。r2GM/c2の内側領域に事象の影響はありますが 2GM/c2 < r の外側領域には事象の影響(すなわち因果律の影響)がおよびません。

 

そのため、球面 r = 2GM/c2 は「事象の地平面(Event horizon)」とよばれています。これはイベントホライズンテレスコープの名前の由来になってますね。

 

天体が自身の重力で圧縮されて、質量のすべてが事象の地平面の内側領域に集中して収まってしまえば、それがいわゆる「ブラックホール」になるわけです。

 

この話の続きはまた次回の「数理科学の小道」で。。。

非整数の次元ってあるの?(中高生にもわかるフラクタル幾何学)

カテゴリ: 数理科学の小道 作成日:2019年01月24日(木)

あるんです。

 

次元というと、 2 次元は平面、3 次元は立体というあの次元です。3Dゴーグルや3D音響などは、ゲームやバーチャルリアリティーなどでおなじみかもしれません。3D の D とは次元を意味する英語  "dimension" の頭文字のことですね。

 

このタグイに 1.58…次元とか 1.26… 次元という非整数(整数でない中途半端な)次元があるということなんです。

 

 

 

 

ではこれから、整数でない中途半端な次元という「数理科学の小道」をご案内したいと思います。

 

 

  

まず、次の図形を考えてみましょう。

 

SierpinskiTriangle5 1

 

 操作 0. 辺の長さが 1 の正三角形を作ります。

 操作 1. 操作 0 で作った正三角形の各辺の中点を頂点とする、辺の長さ 1/2 の正三角形

 を切り抜く。すると、辺の長さが 1/2 の正三角形が 3 個できる。

 操作 2. 操作 1 で作った 3 個の正三角形の各辺の中点を頂点とする、辺の長さ 1/4 の

 正三角形を切り抜く。すると、辺の長さが 1/4 の正三角形が 9 個できる。

 操作 n. 操作 n-1 で作った 3n 個の正三角形の各辺の中点を頂点とする、辺の長さ

 1/2n の正三角形を切り抜く。すると、辺の長さが 1/2n の正三角形が 3n+1 個できる。

 

 

この操作 を無限に繰り返す( n → ∞ )とどうなるでしょうか。この無限操作でできる図形を「シェルピンスキー三角形」といいます。

 

このシェルピンスキー三角形という図形の面積は 0 です。1 回の操作ごとに 3/4 倍に減少し、すなわち n → ∞ で √3/2×(3/4)→ 0 になるからです。

 

面積が無いわけですから、本当にこの操作を無限に繰り返すと画像から消えて真っ白になってしまいます。なので、普通は適当なところで止めたものを作図します(当たり前ですね)。

 

 

確かに面積は 0 ですが、何も無いわけではありません。ただの点とは違う無限小の正三角形が無限にあるわけです。この残された無限のチリの集まりのような図形、面でもなく点でもなく線でもなさそうなこの図形は一体何なのか。

 

 

 

こういう疑問に「次元」という切り口で真面目に考えた人たちがいます。その代表的な人物がフィリックス・ハウスドルフというドイツ数学者です。この人物の名を冠した「ハウスドルフ次元」というのがあります。これは、次元の概念として最も万能なものですが少し難しいですね。

 

 

ここでは、ハウスドルフ次元よりもっとやさしい「次元」について扱ってみましょう。 

 

相似次元2 1

 

1 辺の長さが 1 の立方体を 1/2 に縮小したら、この縮小した立方体の体積は元の体積の何分の 1 になるでしょうか。

 

1/8 になりますよね。

 

 

ここで次の式を見てください。

相似次元3

これは、縮尺 1/2 を D 乗すると 1/8 になるという意味の式です。D=3 なのはすぐにわかると思います( D に 3 を代入してみてください)。

 

このようにして得られる D の数を「相似次元」といいます。

 

 

では、同じようなことを 1 辺の長さが 1 のシェルピンスキー三角形で考えてみましょう。

 

1/2 に縮小したものを色付けしてみました。元の三角形には縮小コピーが 3 個あることに気づきますよね。すなわち、

                                      S(a)

になります。そして両辺の対数をとります。

log

これをていねい計算すると、

log2

っということで、中途半端な次元が見つかったことになりますね。

 

log x (対数)を初めて見てとまどう人は、実際に D≅1.58 を (a) 式に代入してみましょう。

 

整数でない指数をどう代入したらいいかわからないとき、そうです「平方根」を使うんです。平方根とは 1/2 乗のことだからです。D≅1+1/2+(1/2)4+(1/2)6+(1/2)8=1.58203125 とすると (a) 式の左辺は

root8

 結構見苦しい計算になりましたが、何となく分母が 3 に近づいていることがわかると思います。

 

ちなみに、D≅1+1/2+(1/2)4+(1/2)6+(1/2)8+(1/2)9+(1/2)10=1.5849609375 として同じ計算をすると (1/2)D ≅1/2.99999674937 となり、かなり精度が上がります。

 

 

 

他の例としてコッホ曲線というのもあります。

 

Koch curve2 1

 

最初に長さ 1 の線分を作り( n=0 )、それを 3 等分して真ん中を抜き取って、抜き取ったところに長さ 1/3 の線分 2 本使って山を作ります( n=1 )。次に 4 本の線分に対して同様の山を作ります( n=2 )。この操作を無限に繰り返すと右端のコッホ曲線という図形ができます。

 

コッホ曲線も同じように相似次元を求めることができて = log4 / log3 ≅ 1.26 となります。

 

 

 

ところで、シェルピンスキー三角形とコッホ曲線には共通するところがあります。それは、まるでロシア土産のマトリョーシカという入れ子人形のようになっていることです。

 

このように無限な入れ子状態の図形の特徴を「自己相似」といいます。相似次元はこの自己相似という特殊な性質を利用しなければ求まりません。つまり、たまたま求まったということです。

 

しかし、自己相似な図形でなくても、無限に切り刻まれたり、連結してても無限にクシャクシャに折れ曲がっていたり、整数の次元では扱えない図形がたくさん存在します。こういう一般的な図形について、以前に述べたハウスドルフ次元という概念が必要にります。

 

 

 

ハウスドルフ次元が適用される例の一つに「マンデルブロ集合」というものがあります。下がその図ですが、スマホのアプリで簡単に計算して描くことができます。マンデルブロ集合とは下の図の黒い部分を指します。詳しい意味については Wikipedia の記事をご覧下さい(特に詳しい意味がわからなくても大丈夫ですよ)。

 

Mandelbrot2

 

これも自己相似な図形の仲間ですが、完全な自己相似ではありません。自己相似のようで微妙にそうではないために「準自己相似」といいます。

 

この図形の輪郭線(境界)の次元を求めるのはとても難解ですが、宍倉光広氏という日本人数学者がそれを成し遂げました。この輪郭線は 2 次元なんです。輪郭「線」なのに 2 次元って不思議ですよね。

 

 

2 次元とわかったら面積が知りたくなりますよね。しかし、Wikipedia の英文記事を読んで驚いたのですが、面積があるのかどうかわからないんだそうです。

 

記事には ❝マンデルブロ集合の境界(輪郭)が正値 2 次元ルベーグ測度を持つかどうかわからない。(出典:Wikipedia "Mandelbrot set" より)と記載されています。大雑把にいうと「ルベーグ積分」という少々ややこしい図形の面積でも計算できるやや万能な積分(積分とは面積の計算方法です)があって、それを計算するための「ルベーグ測度」というモノサシがあるのかどうかわからない、っていう意味だと思ってください。

 

謎はまだまだ続きそうです。

 

 

 

 

っということで最後は、マンデルブロ集合を発見した数学者、ブノワ・マンデルブロ氏ご自身のお話でお楽しみください。

 

ちなみに、これまで「次元」といってきた D とは、図形の輪郭や表面の荒さ(roughness)を表す指標としても使われることがあります。2 次元平面内の輪郭線であれば D の値が 2 に近くなるほど荒さや凹凸が激しいという意味になります。マンデルブロ氏のお話を理解するための参考になさってください。

  

TED2010 ブノワ・マンデルブロ: フラクタルと荒さの科学