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フェードカットの技術とその数理(高校生レベル)科学 - J+(ジェープラス)‐東大阪市徳連商店街の理髪店です。

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フェードカットの技術とその数理(高校生レベル)科学

カテゴリ: ヘアスタイル四方山ばなし 作成日:2019年03月29日(金)

今回の記事は、フェードカットの刈り上げの最適な形状を数理的に表現したらどうなるかという内容になります。一応、高校数学レベルの内容になりますが、数式がわずらわしいと思われる方は、結論にあたる 2.4 節からお読みいただいても構いません。

 

ヘアスタイルが数理科学で扱えるって、なんて素敵なんでしょう!多分、こんなの世界初じゃないでしょうかね。論文にせずにただのブログ記事にするなんて勿体ないくらい。

  

また、数理科学にご興味の方は「数理科学の小道」のカテゴリー記事もよろしくお願いいたします。

 

 

1. フェードカットって何?

まず「フェードカット」をご存知ではない方のために、その意味について説明します。ご存知の方は読み飛ばしてもらっても構いません。

 

1.1 フェードカットとは刈上げのヘアスタイルの一種

フェード(fade)とは次第に消えていくという意味の英語です。裾(すそ)や耳回りにかけての毛髪の生え際が見えなくなるくらい、刈上げの厚みを薄くするという意味です。

 

実際はこんな感じですね。

 

gradside

 

ですから、フェードは刈り上げの濃淡でステップ(段または急激な変化)を作るという意味ではないんですね(よく誤解されがちですが)。 

 

生え際は厚さ 0.3mm ぐらいのバリカン(トリマー)を使います。

  

DSC 0879

 

これはフェード専用のトリマーで、シェーバーか何かで剃ったような感じになります。すなわち、ほぼスキン(地肌)の状態です。刃の部分を拡大してみると 

 

DSC 0884

 

刃の厚みがかなり薄いことがわかりますね。こういう、特に生え際をスキンの状態にしたものを「スキンフェード」と言います。 

 

1.2 フェードカットはグラデーションがいのち

フェードカットで重要な特徴はグラデーションです。グラデーションとは、生え際から上の方にかけての連続的な濃淡の変化のことです。刈り上げの厚みが増す上の方ほど濃淡が濃くなります。

 

散髪屋さんではグラデーションのことを「色彩(しきさい)」なんて言い方をします。また美容師さんにグラデーションと言った場合、低い目の段カットを意味することがありますのでご注意ください。

 

 

2. グラデーションの数理モデル

 

2.1 刈り上げの厚さとグラデーションの濃淡との関係

ではこれから、この関係を数式で表していきますね。

 

厚さを x として、厚さ x のときの濃淡を f(x) とします。

 

ただし、x = 0 のとき地肌が完全に見えるスキンの状態の濃淡 f の値を 1 とします。すなわち、f(0) = 1 とします。そして、厚さ x が増すと地肌が毛髪に隠れて見えなくなります。地肌が完全に隠れて見えなくなったときの f の値を 0 とします。

 

fadefanc

 

ここで、刈り上げの(微小な)厚さ Δx だけ増やしたとします。このとき濃淡 f の変化分を Δf(x) = f(xx) - f(x) とすると

                    differences                  (1)

と表せるものとします。ここで α は毛髪の生える密度や太さに関わる定数で「透過率」とします。いわゆる「透けぐあい」ですね。

 

(1) 式は厚さ Δx の半透明フィルムを重ねていくというイメージの意味になります。Δx の厚さのフィルムを重ねるごとに α の割合で地肌が見えにくくなるという感じになります。

 

(1) 式の両辺を Δx で割って、Δx を 0 に近づけます。

                   difeq(2)

これで一階の線形微分方程式が完成しました。

 

2.2 方程式を解いていみよう!

(2) の方程式はこんなふうになります。

                   solv                    (3)

C は積分定数ですが f(0) = 1 なので = 0 です。なので

                   solvfin                             (4)

ただし、f は x につて単調減少するものとし α < 0 とします。

 

これで、方程式を解くことができました。 

 

2.3 理想的な刈り上げの形状を求めてみよう!

(4) 式は厚さ x とグラデーションの濃淡 f との関係です。これをもとに、グラデーションの濃淡が一定に変化するときの厚さ x の変化を求めていきます。それが、すなわち刈り上げの形状になります。

 

まず、 グラデーションの頭皮の位置を p とします。グラデーションが始まる位置を = 0 、グラデーションが終わって頭皮が見えなくなる位置を p=1 とします。すると、0 < p < 1 の範囲で (4) 式は次のように表せます。

                   頭皮                  (5)

つまり、pf(p) 、 x(p) の媒介変数とします。ただし、p < 0 の範囲では f(p) = 0 とします。

 

(5) 式を x(p) について解くと

                   formfanc                (6)

(6) 式 を見ると、p → 1 で x → ∞ (ただし α < 0)となり発散することがわかります。

 

実際にはこのような発散は起こりません。このような奇妙な結果は、この数理モデルにおいて、刈り上げ部分のすべてが起毛していることを前提にしているためです。実際は、毛髪がある程度長くなると自重で起毛しなくなります。起毛しないときを想定した場合、別の数理モデルを作る必要があります。ここでは、その問題には触れないことにします。

 

2.4 刈り上げの形状を描いてみよう!

(6) 式を図に示すとズバリ

 

gradform2

 

こんな感じになります。青い実線が刈り上げの形状を表していると思ってください。ただしスケールは適当に設定してあります。

 

刈り上げの薄い部分、すなわちグラデーションの始まり付近はほぼ直線的に厚みが増します。ところが、グラデーションの半ばから凹型曲線、すなわちコンケーブが目立ってきます。

 

しかし、実際は頭皮の形状自体が凸型曲面(コンベックス)なので、盆の窪(ぼんのくぼ:頸部(けいぶ)の付け根で延髄(えんずい)にあたる場所)より上は凸型の形状になります。

 

特に刈り上げの厚い部分は、厚みの変化に対する濃淡変化の感度が低くなるので形状を優先してカットします。

 

では、数理的なお話はここまでとしますね。

 

さらに厳密で複雑な数理モデルがあるかもしれませんが、方程式が複雑になり手計算で解けなくなる場合も考えられます。これから先は読者の皆さんにお委ねします。 

 

 

3 理美容技術は自然科学である!

「〇〇は科学である」なんていう言葉はよく目にしますが、人文科学も社会科学も科学にはかわりありません。人間が営むところであればスピリチュアルなものでさえも人文科学のくくりにされるくらいですから。

 

しかし、私はもっと大胆に理美容技術は「自然科学」であると提言したいんですね。理美容の専門知識のある方の間では、ヴィダル・サスーン氏はよくご存じだと思います。氏はそれまで経験のみに依存したヘアカット技術に再現性の高い理論を最初に築きました。

 

また、斉藤隆一氏、松岡達夫氏や札埜義造氏により、日本独自の理容技術が確立されています。

 

これからも、理美容技術の自然科学としての価値を高める余地は十分あると期待しております。