前回の「中高生でもスッキリわかる相対性理論の数理(1)」でブラックホールを例に
❝エネルギーや質量のある物体が存在すれば、その周りの時空間は歪む❞
っというお話をしました。
では「時空間が歪む」ってそもそもどういうことでしょう。この「時空間の歪み」を言い換えれば、時と場所ごとに「一様でない」尺度で時空間の伸縮するという意味で捉えることもできます。
相対性理論で、時空間の伸縮とは一体どういうことなのか、これからお話したいと思います。
慣性系(動く座標系)って何?
時空間は位置や時刻を測ってこそ伸びたとか縮んだとかをいう話ができます。
空間または時空間において、位置や時刻の測定値を表す仕組みを「座標系」といいます。
相対性理論では、空間の 3 成分 (x, y, z) と時間の 1 成分 t とを合わせた (t, x, y, z) の 4 成分の座標系(○○系を「System」というので、座標系を S と表すことにします)をあつかいます。
4 成分の座標系ですから 4 次元になります。4 次元ってイメージしにくいと思いますが無理やり図にすると

図 2.1 時空間て何?(図はイメージです)
っという感じになります。もし「私」が静止していれば、t 軸に平行して連続する「私」があるって感じです。ここでは示しませんでしたが、当然連続する「過去の私」もあるわけです。
ちなみに、(t, x, y, z) の 4 次元座標で特定される時刻と位置を「世界点」といいます。
物理ではおもに運動をあつかうので、座標系が運動する場合も考えます。特に「等速直線運動」する座標系のことを「慣性系」といいます。
等速直線運動とは、速度を変えずに一直線上を進む運動のことです。すなわちまったく加速(アクセル)が生じない運動のことで、速度 0 の静止状態も等速直線運動の特殊例として考えます。またカーブも加速の一種と考えます。なぜなら進行方向とは垂直な方向に速度が加わる(加速する)からです。
静止または等速直線運動する物体は、力が加わらない限り、静止または等速直線運動の状態を保ちます。この性質のことを「慣性」といいます。この慣性はすべての物体に成り立つということをイギリスの物理学者アイザック・ニュートン氏が発見し「慣性の法則」として知られています。
次の 2 つの慣性系の例を考えましょう。地面に対して静止している慣性系と、地面に静止した慣性系の x 方向に速度 v で等速直線運動する電車の中の慣性系です。
慣性系も座標系の一種ですから地面に静止した方の慣性系を S、電車の中の慣性系を S' というふうに表すことにしますね。

図 2.2 相対速度 v の慣性系
S で表す座標を(t, x, y, z)とし S'で表す座標を(t', x', y', z')とします。
(t, x, y, z)と (t', x', y', z')との間にはどんな関係があるのでしょうか。
今後の計算をラクにするために S と S' の原点を揃えておきます。すなわち
(2.1)
S' は x 方向に vtだけ並進するので
(2.2)
という関係が成り立つとすぐにわかります。
1 つの世界点に対して慣性系の数だけ異なる座標が決まります。そういう異なる座標どうしの関係式(2.2)のことを「ガリレイ変換」といいます。
しかし、ガリレイ変換のように簡単にはすまされないというのが、これからの特殊相対性理論のお話なんですね。
相対性原理と光速度不変の原理
前の章では地上と電車内の慣性系の例をあげました。
では、この世界に慣性系は幾つあるでしょうか?電車の数だけ?同じ電車でも速度や進む方向を変えれば、その都度新しい慣性系が現れます。
地上の慣性系についても、地球は自転して公転し、太陽系も銀河を秒速 200km 以上で公転しています。
すべての運動速度は、さまざまな慣性系ごとに相対的に異なる値をとるという意味で「相対速度」といういい方をします。
さて、無数・無限にある慣性系たちの中で、絶対基準となる静止した慣性系って在るんでしょうか?
このような疑問を解決するために 1887 年 米国でアルバート・マイケルソン氏とエドワード・モーリー氏という物理学者によりある実験が行われました(マイケルソン・モーリーの実験)。当時、光は何かの波動であることは知られてましたが、その波動媒質と地球との相対速度を検出するのが実験の目的でした。
波動の媒質とは、波が伝わるために振動するものをいいます。音なら空気、糸電話ならピンと張った糸、池の波紋なら水面にあたります。
結局、この実験では光の波動媒質と地球との相対速度は検出されませんでしたが、次の 2 つのことが判明しました。
・絶対的基準となる静止した慣性系を定義することはできず、すべての慣性系は相対的なものである。そしてどの慣性系においても同じ物理法則が成り立つ。(相対性原理)
・どのすべての慣性系で観測しても、真空中の光速度 c は同じ。(光速度不変の原理)
これら 2 つの原理は相対性理論の大前提になっています。
光時計と時空間の伸び縮み
再び S と S' の話にもどりましょう。
電車の中の慣性系 S' に「光時計」という装置を設置したとします。どんな装置かというと、間隔 l で設置した合わせ鏡です。この合わせ鏡の間を鏡の面に垂直に光が往復します。光の往復の回数で時間を計るという仕組みです。

図 2.3 慣性系 S' で観測した光時計
さて、電車の中 S' でこの光時計を設置して観測したとき 1 回あたりの光の往復時間は t'=2l / c です。
この電車内に設置された光時計を S で観測すればどうなるでしょうか。

図 2.4 慣性系 S で観測した光時計
S から観ると光時計は当然速度 v で右方向に運動してます。そのため光の軌道は図のように斜めになります。すると、斜めの軌道の距離 L は l よりも長くなりますよね。
光の片道の時間は L/c ですから、この光の片道で到達する間に光時計が移動する距離は Lv/c
になります。このとき「三平方の定理」を使って次の式が作れます。

これから S で観測した光の往復時間 t = 2L/c が得られます。
(2.3)
(2.3) からわかることは、電車内の S' での往復時間 t' を電車の外 S で観測すると 1/√(1-v2/c2) 倍になりゆっくりスローに見えるということです。
動いている慣性系の時間がゆっくりになる、すなわち時間が伸びるというのは、光速度 c が不変であることによる奇妙な結果の 1 つです。
次は、光時計を S' が運動する方向に倒してみましょう。
慣性系 S' において鏡 A を x' = 0 に、鏡 B を x' = l に設置します。
光は鏡 A から出発し鏡 B で反射して再び鏡 A に戻ります。

図 2.5 光時計を横倒しにすると
慣性系 S′ で観測すれば光時計との相対速度は 0 なので、光の往復時間は普通に t' = 2l/c になります。
一方、同じ事象を慣性系 S で観測したときの光の往復時間 t を求めてみましょう。

図 2.6 横倒しにした光時計を慣性系 S で観測する
これまでの話と違うのは、合わせ鏡の間隔 l の向きに相対速度 v がともなうということです。そこで相対速度 v のときの合わせ鏡の間隔の長さを l' とし、静止時の長さ l と区別することにします。
t=0 に鏡 A から発した光が鏡 B に到達するまでの軌道の長さを L1 とします。このとき次の式が成り立ちます。

よって

t=L1/c に鏡 B で反射した光が鏡 A に戻るまでの軌道の長さを L2 とします。このとき次の式が成り立ちます。
よって

したがって S で観測した往復時間 t = (L1+L2)/c は

S と S' で観測したそれぞれの往復時間 t と t' を (2.3) に代入すると
(2.4)
が成り立ちます。
(2.4) 右辺の v を光速度 c に近づけると根号の中が 0 に近づき l' は縮んでいくことがわかります。これが「ローレンツ収縮」という現象です。
現象とはいえ、長さ l' が見せかけで縮んでいるのではなく本当に縮んでいると考えてください。時間も見せかけではなく本当に伸びています。
相対性理論において、そもそも時間と空間は、位置や速度と同様に慣性系ごとに変化するものだと定義しなおすべきものなのです。
ローレンツ変換(ガリレイ変換の修正)
以上、時空間の伸縮が明らかになったからには、(2.2) の「ガリレイ変換」を修正しなければなりません。ガリレイ変換には時間と空間の尺度の変化が表されていないからです。
ガリレイ変換を修正したものを「ローレンツ変換」といいますが、この修正によって時空間の伸縮以外にさらなる不可思議な現象が明らかになります。
慣性系の座標の変換式は 1 次式でなければなりません。何故なら、変換による値の変化が位置や時刻に対して均一でなければならないからです。すなわち、時と場所が変わったくらいでは物理法則は変わらないという意味に基づきます。
相対速度のともなわない y 座標 z 座標は変換において不変です。
また、ここでも (2.1) を適用し定数項は 0 とします。
以上の条件から変換式は次のように表せます。
(2.4)
では再び光時計の話に戻りましょう。
前章で求まった L1、L2、l' を図 2.6 中の式に代入してみましょう(図 2.7)。

図 2.7 図 2.6に代入してみたら
今後必要な式だけ表記しました。
光が鏡 B で反射する瞬間の世界点を慣性系 S' から観測ときの座標は t'=l/c, x'=l です。これと同じ世界点を慣性系 S で観測した座標は t = (l/c)・(1+v/c)/√(1-v2/c2), x=l・(1+v/c)/√(1-v2/c2) です。
また光が鏡 A に戻った瞬間の世界点を慣性系 S' から観測ときの座標は t'=2l/c, x'=0です。これと同じ世界点を慣性系 S で観測した座標は t = (2l / c)・1/√(1 - v2/c2), x = 2l・1/√(1-v2/c2)です。
以上を (2.4) に代入して整理すると

となります。l は計算中に消えてしまいます。
これで a00, a01, a10, a11 が求まりますので (2.4) は
(2.5)
となり「ローレンツ変換」の式が完成します。
オランダの物理学者ヘンドリック・ローレンツ氏は、電磁気学の難しい議論を通して (2.5) とまったく同じ変換式を導出しました。
(2.5) の t' の式の右辺を見ると x の項が含まれています。これはガリレイ変換式 (2.2) と大きく違う特徴です。
S の x 座標が変化すれば S' の時刻 t' も変化します。これは慣性系 S にとって同時刻の事象が、場所が変わるだけで慣性系 S' の観測でば同時刻でなくなるということです。
ここまでの議論のほとんどはアインシュタイン氏による提案は含まれていません。アインシュタイン氏独自の提案はおもに運動力学において展開されます。
中高生でも理解できる相対論のブログをお楽しみいただけたでしょうか。今回は、中学生レベルの数学に何も加えることなく十分理解できる内容だったと思います。
次回の連載記事は、いよいよ相対性理論の運動力学ついて議論したいと思います。
ではお達者で。。。